失踪者 (カフカ小説全集)

失踪者 (カフカ小説全集)



「失踪者」フランツ・カフカ


思ってたより面白かったです。はい。
代表作「城」のような世界も良いと思いましたが、うん、これもまぎれもなくカフカの世界でした。


最初のほうは、これがカフカなの?って思うような普通で健全な展開(笑)なんですが、Ⅱ「伯父」の途中、クララとカールのやり取りからカフカ的アブノーマルな世界(w)に突入、いっきに面白くなる。アブノーマルといっても「流刑地にて」に表現されているように何かを象徴しようとして人物に変な動きをさせているとは思いますが。。


なんていうのか、ひと言で言うと、悪夢を見ているような、その悪夢から逃れようとしてもがいている感覚というか、そういう感覚が面白いですね。カールはホテル・オクシデンタルから追放されるんだけど、門衛主任が執拗にリベンジしようとする辺りなんか。一見門衛主任は狂気に取りつかれたように見える執拗さだけど、やっぱりこれも何かを象徴的に描こうとしていたんだろうな、と思いつつ読み進めてました。


「ブルネルダ」もそういった意味で面白く、隣の学生の勉強ができるのに都合のいい仕事探しの話とか、オクラホマ劇場のところとか、一つ一つを独立した短編にしても成立するような濃さですね。


「職業探し」というテーマ。簡単にいえばそういうテーマなんだと思います。「城」の主人公Kが永遠に城にたどり着けないように、カール・ロスマンも永遠に自分の満足いく職業に就けないのかなぁ、とか考えました。オクラホマ劇場は理想的な職場に見えますが、未完なのでこの後どうなるかわかりませんし。。満足いく職業に就けないというのは、きわめて現代的ですね。


カフカ自身が小説執筆に都合のいい仕事(労働者傷害保険協会朝8時から2時までの勤務)をしていたにもかかわらず、生涯で1冊の短編集しか発表しなかった人ですし。ユダヤ系ドイツ人で、自分がどこに属しているのか、自分は何なのかといった彼の苦悩は、私たちの想像を絶するところであったと思われます。そういった苦悩が背景にあるにもかかわらず、面白い小説を書く人ですね、カフカは。


ブラック・ユーモア傑作選 (光文社文庫)

ブラック・ユーモア傑作選 (光文社文庫)

中学生だったかな、これをはじめて読んだのは。物語文学の入り口でした。ただ中学生が読む内容ではなかったですね(苦笑)。親に隠れて本を読むようになったのはこの頃です(笑)。セレクトされている錚々たる面々、筒井康隆中島敦横光利一坂口安吾遠藤周作半村良野坂昭如志賀直哉夏目漱石芥川龍之介など。いま思うと最初にこういう中身の濃い選集に接してよかったな、と思います。