トゥモロー・ネヴァー・ノウズ


最初にお断りしておきます。これはドラッグの話ではありません。音楽の話です(w。


リボルバー

リボルバー

リボルバー」 ザ・ビートルズ 1966年 ビルボード6週連続1位


ポール  「リボルバー」の最後の曲、「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」は、完全にジョンの曲だ。この頃になるとみんなドラッグを試すようになっていた。LSDなんかも含めてね。ジョンはティモシー・リアリーが翻案した「チベット死者の書」を持っていた。
ジョン  リアリーがそこら中で触れまわってたんだよね、これをやってみろ、やってみろ、って。それで僕らは彼の"トリップする方法"の本に出てる指示に従ったのさ。僕は彼がその本で言っているとおりにやって、そのあと「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」を書いた。あれは初めてのアシッド・ソングといえるんじゃないかな。
ジョージ  最近ずっと不思議に思ってたんだけど、どうしてこれが「チベット死者の書」からとったってことになったんだろうね。むしろティモシー・リアリーの「ザ・サイケデリック・エクスペリエンス」って本に基づいていると思うけど。あの歌詞は超越主義の本質を描いているんだよ。

(笑)。。はい、懲りずに今年も続きますよ、サイケ。まだまだ創成期、これで2曲目です。先が長いなぁ(は〜)。
トゥモロー・ネヴァー・ノウズは、LSDによるドラッグ体験を音楽化した作品。またロックにおいて、まったく新しい音楽が生み出された画期的な曲でもあります。わたしが子供の頃これを聴いたときは「なんか怖い」って印象でしたね。いつもそこだけ飛ばす曲みたいな(笑)。しかし大人になってある程度音楽の知識が身についてくると、「すばらしい曲」に変化してました。知識と感動が連動している作品というのもあるものですね。


まずギターがある人はお手元にご用意ください。初心者の方でも簡単に弾き語りができます。使うコードはCとB♭onC(人差し指で3フレットを押さえるだけ)です。もしあなたが初めて覚えた曲が「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」で、それを弾き語ってしまった人なら、ロック史の中でも貴重な存在になることでしょう(笑)。


冗談はさておき。。ね、簡単に弾けるでしょう。この構成は決して手抜きな曲を作ろうとしたのではなく(笑)、導入部から流れ続けるシタールの「ビョ〜ン」に関係があるんですね。これはドローンといいます(ドローンとミニマルの関係はsubterraneanさんがわかりやすく解説されているので参照してください)。インド音楽にはこのシタールのドローンが使われて、1つの音が持続的に流れ続ける。「トゥモロー・・」はそれをロックにしたんですね。とはいえポールのベースに関してはドローンではなくてペダルトーン(通奏低音)で、インド音楽の西洋的解釈といえます。そこにリンゴのバックビートが加わることによって立派なロックになっているわけです。


ジョージ・マーティン  あの頃4人の中では、ポールが一番アヴァンギャルドな方向性を持っていただろう。<中略>当時のポールはシュトックハウゼンジョン・ケージといったアヴァンギャルドなアーティストにすごく夢中になっていた。
ポール  ソロが必要だってことになった。僕はその頃テープ・ループに凝っててね。
ジョン  ポールが家でテープを作ってきたんだ、どのキーだか知らないけど。それを6人で鉛筆にひっかけて、6台のマシーンにかけた。全体の効果は望みどおりだったと思うね。
ジョージ・マーティン  自宅のテープ・レコーダーで実験を始めたのは、実はポールなんだ。<中略>彼がほかのメンバーにその方法を説明し、リンゴとジョージもそれにならっていろいろなループを持ってきた。私はそれをいろいろなスピードで再生し、遠回しにしたり、逆回転させたりして聴いてみて、いくつかセレクトした。

こうして2度と再現不可能なトラックが出来上がる。カモメの声のような音、逆回転のギター、何の音かわからないような奇妙な旋律が2つ、シンセサイザーのようなB♭の和音、グランドピアノの狂い弾き。それらはセンスよく配列され、非の打ち所がまったく無い。聴けば聴くほど笑ってしまう。それは完全に音楽になっているんです。


そして最後にジョンのあの奇妙な声について。

ジョージ・マーティン  「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」のときは、丘の上でダライ・ラマが経文を唱えているようなヴォーカルにしたいと(ジョンが)言うんだ。<中略>それでエンジニアのジェフ・エメリックに相談してみると、彼がいいアイディアを出してくれたんだ。"彼の声をレズリー・スピーカーに通して、それをもう一度レコーディングしましょう"とね。レズリー・スピーカーというのは<中略>回転スピーカーで、<中略>彼の声をそのスピーカーに通して、もう一度レコーディングすれば、断続的なビブラートが得られる。それが「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」で聴こえる音だ。そんなことはそれまで誰もやったことが無かったと思う。あれはきわめて革新的な曲だったよ。

レコーディング技術の向上もサイケの音を表現する上で欠かせない要素ですね。


さて、とんでもない時代だったんですね。いや、いい意味で。さぞ楽しかったんだろうなと思います。反面ドラッグの中毒で死亡した例もあり、過激な時代でもあったんですね。ジョンはドラッグにおぼれていくことはありませんでした。遊びとジョークとアイロニー、これらが彼がとんでもない曲を作る原動力になっていると思われます。