NHK漢詩紀行より


空しく悲しむ 清夜のゆくを
         杜 甫


倦 夜
 杜 甫


竹涼侵臥内   チクリョウガナイヲオカシ
野月満庭隅   ヤヅキテイグウニミツ
重露成ケン滴  チョウロケンテキヲナシ
稀星乍有無   キセイタチマチニウム

暗飛蛍自照   クラキニトブホタルハミズカラテラシ
水宿鳥相呼   ミズニヤドルトリハアイヨブ
万事干カ内   バンジカンカノウチ
空悲清夜ユク  ムナシクカナシムセイヤノユクヲ


竹林のひんやりとした涼気が寝室にまで入ってきて
空に浮かぶ野の月は庭を隅々まで照らしている
重なった滴が露となって落ち
夜空にはまばらな星が瞬いている

暗がりに飛ぶ蛍はその身を照らし
水辺に宿る鳥は互いに呼び合っている
これらすべてのことが戦争の最中の事と思うと
この清らかな夜が過ぎていくことをなすすべもなく悲しむのだ